今となっては

体力と忍耐を試された最たるひとつは
幼い息子ふたりと大荷物を
文字通りひとりで抱えて

じじばばに会わせたい一心で
欧州と日本間を何往復もしたことだ

とにもかくにも狭い機内で片道約12時間
かたや ミルクが欲しいしおむつも替えろ
かたや 動き回りたいしおもちゃも渡せ
はたまた お子さまの安全のためにお席に座らせろ
さらには もう少しお静かに

そんな無理難題を
捌ききれる器は持ち合わせていないから

ある時点で堰が切れた

ところが不思議なことに
こぼれる涙が
心に潤いを与えてくれていた

まだ幼かった長男は
母親のただならぬ様子を
ようよう穏やかになって行く儀式を
こっそり眺めていたらしい

 

今となっては

じじばばの待つ日本に限りなく愛着を抱き
母親が持てない荷物を軽々と持ち上げる
そんな若者たちになり

何年にもわたる鍛錬の日々は
ここに至るためのものだったと思い当たる

 

野生に生きる動物たちと比べものにならないほど
人の成長にはおそろしく時間がかかる

でも
そんな人の生
すてたものじゃない

 

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白乃ちえこ
白乃ちえこ