上質な短編映画

言葉の長さと想いは比例する という指摘も、
華美なゴシック建築が人を魅了する のも理解できる。
でも私は、短くても、小さくても、簡素でも、
その『エッセンスが凝縮されている上質なもの』にこそ強く惹かれる。
その濃さが、その潔さが、その端的さが、その素材が、
とにかく魅力的だと感じるのだ。
濃淡だけで表す墨絵、
無地のカシミアのセーターや
真っ白な麻のテーブルクロス、
グリルしただけの野菜、
朝露に濡れた道端の野花。。。
今回鑑賞した「The Neighbours’ Window」で描かれる世界は
短編であるがゆえに無駄を削ぎ本質を浮き彫りにする、
上等な映画だったと思う。
私にとってはまさに好物である。
ニューヨークの高層アパートで夫婦と3人の幼い子どもが送るにぎやかな日常が、
隣の棟の、窓越しにうかがえる若い二人の甘い生活と対照的に映し出される。
ところが、子どもの母親が抱く日々のやるかたない想いは、
向かいの若い男性が急逝し、残された女性から母親に向けられた言葉で逆転する。
洗練された饒舌な描写、自分のココロこそが作り出す日常、喪われたものへの哀切、
ひとつの短編でいくつものペーソスが味わえる上質なひとときだった。