還る

生れ育った家が取り壊された

戦後の混乱期を過ぎてから父が親兄弟と移り住み
修理やら増改築やらを繰り返してきた家だったから
かれこれ70年近くの歳月を守った土台もろともだ

辺りの空気を浄化してくれたアボガドの木も
丹精込めて育てたバラやきゅうりも
子供のころ飼っていた猫や鳥や金魚の墓も
軒下に棲んでいたでっかいカエルの遺体も
そして家族の背を測り続けた柱も

もろともだ

ずっと前にそこにあった生が絶え
その上に私たちが生活したように

あの家もろとも
そこにまつわる想い出もろとも
地のひとつの層になってゆく

そうして地球に還ってゆく

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白乃ちえこ
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