シロの遠吠え

救急車のサイレンとオートバイのエンジン音を聞いた時だけ
どことなく物悲しい切ない遠吠えを繰り返す
ふだん何も言わないシロはそんなとき
おおむかしオオカミだったころを思い出しているのか
草原を走っていたころを
私が思い出すのは
あの苦しい日々にシロが物言わぬまま驚くほど饒舌に
私を励ましてくれたことだ
ただただそこにいてやさしく見つめて手のひらをなめて
私の悲しみや苦しみや焦燥すべてを汲んでくれた
毎日毎日寄り添ってくれた
何と謙虚で何と力強いのだろう
犬という生きものは
恨まず、妬まず、家族を愛し
小さなことにも幸せを見い出す
人間はとうてい及ばない
そういう至らない人間の想いを掬い取って
みずからのルーツの思い出と共に遠吠えで
空に昇華させてくれているのだろうか
何と愛しい同胞であろう