風物詩

魅惑的なガレットがあります。
Galette des Rois(王様のガレット)と呼ばれる
アーモンドをふんだんに使ったお菓子。

カトリックの祝日エピファニーの1月6日前後
フランスやベルギーの家庭で食されるもので
カスタードクリームとアーモンドで作った
フランジパーヌを焼きこんだパイです。

そこにはfèveという小さな陶器の人形が
ひとつだけ潜ませてあって
自分のひと切れに入っていた人は
王冠に見立てた飾りを頭に乗せ
ちんまりした人形が約束するその年の幸運を祝う、
そんな余興とともに味わいます。

また、
風味を愉しむのが本筋だけあって
素材の良さはいわずもがなながら
香りや舌ざわりの差が大きくものを言います。

昨年開店した近所のパティスリ―、
ちょっぴり贅沢ながら
舌の肥えたこの界隈の人びとに受け入れられたと見え
なかなか繁盛しています。

期待を胸にその店のガレットを
初挑戦したところ、大いに満喫しました。

軽やかなパイとしっとりしたフランジパーヌは
いずれもふくよかなできばえで
そこはかとなく塗られた
アプリコットジャムがほのかな酸味を添えます。

パイのさくさくした食感とアーモンドのコクとの合奏ですから、
左党にとっては、午後のお茶というより
辛口のピノグリやクレモン・ダルザスのお供に頂きたくなります。

年が明けてさまざまな想いがない交ぜになる
そんな時期に
この香ばしさを嗜むことが
カトリックでもベルギー人でもないのに
いつの間にか家族の風物詩になりました。

 

そして
ガレットで満たされたら夫と息子たちは
2週間あまりの豊かな時間と空間を与えてくれた
クリスマスツリーを
自宅前の林に植えます。

つい1か月前までその木が過ごした
広大な森には遠く及びませんが
せめて感謝をこめて
自然に還すためです。

そうして植え替えた20本近くのうち
数本は見事に根付いてくれました。

いつか息子たちが
自分の子どもたちと訪れることがあったなら
どれほど立派に育っているでしょう。

たおやかな流れの一部だと感じられる
幸せな空想のひとときです。

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白乃ちえこ
白乃ちえこ
つれづれ

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