祖母の導き1

3歳半だった長男が失踪した

乳児だった次男の世話に気を取られ
てっきり母と一緒に出かけたと思っていたところ
母がひとりで帰宅したのだから仰天だった

交番にかけこんで事情を説明すると
パトロール中の警官へ一斉に無線連絡してもらえた

何と優れたシステムだろうと今は思うが
その時はそれどころではない

5月の昼過ぎに見失ってはや数時間
路地の家々は日陰に覆われ肌寒くなってくると
声を枯らして探すこちらも
生きた心地がしたものではなかった

新幹線に乗っていた父は
連絡を受けて気が気ではないどころか
まさかの時は腹を切って責任を果たすつもりだった
と後日語った

足の二本くらい折れる事故でも
いいから見つかってほしい

最悪の事態よりはましだった

どれほど時間が経っただろう
その時の心境を思い出そうとすると
あの鼓動だけが甦る

実家から3キロほど離れた隣の駅前で
ひとりぽつんと佇んでいたところを
警官が見つけてくれたという連絡が入った

まだ死ねないけれど死んでもいいと思った

指示のあった警察署に駆け込んで
長男をこの腕に抱きしめたときほど
感謝したことがあっただろうか

あの駅は
祖母が眠る寺から数百メートルの距離だ

長男を導いてくれたのは祖母にちがいないと
どうしても私には思える

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白乃ちえこ
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