自分の流儀を守ったMに

Mはマグレブの血をひく
目のくりくりした
小柄ながら屈強な人だった

ふたりの子どもたちの日々の糧を得るために
オフィスの清掃をこなしていた

私たちの勤務先で働き始めてから
予め決められた仕事以外にも
進んで雑多なあれこれに対応してくれたり

ラマダン明けに奥さんの手作りお菓子を
たんまり持ってきてくれたり

そしていつも穏やかな笑みを浮かべて
チームのみんなと談笑を交わしていた

合理性を重んじる欧州の契約社会にあって
機転ばかりか かなりの融通の利くその働きぶりは
目を見張るばかりで
みなMと親しんでいた

あるときMが申し訳なさそうに退職すると伝えた
所属先の処遇が腹に据えかねたというのだから
よほどのことだったのだろう

私たちはその所属先とは解約し
転職先と新たな契約を結んだのだった
Mに続けてほしかったからである

 

あれから何かに行き詰まると
Mのことを想い出す

華々しいスタンドプレーと縁遠くとも
愚直に自分の流儀を守り
その上自分なりの結果を出す

まん丸い眼で微笑むMの
静かに でも歩みを止めない
そんなしなやかで 生一本なさまに
心を奮い立たせてもらえるのだ

Mが砂と海と山の故国に戻って
ほどなく5回目の冬がやってくる
今ごろ どうしているだろう

 

<ミントティー>

家族のヴァカンスでマグレブの国を訪れた時
ミントティーを嗜む習慣を垣間見ました。
舌に突き刺さるほど甘いミントティーを
小ぶりのグラスで飲み続ける人びと。
アルコールご法度ゆえに
ことさら愛されもするのでしょう。

最初はあまりの甘味に動悸を覚えるほどでしたが
数日するとその味に慣れ
さらに数日すると脂っこい食事の後などは特に
おいしいとさえ感じるようになりました。
人の味覚とは面白いものです。

さらに、ミントというのは実にしたたかな植物らしく
手をかけてやらずとも冬の寒さを耐え
夏の日照りの中で勝手に大きく育ってくれます。

葉のついた枝ごと切って洗って熱湯を注ぐと
美しい薄緑色に染まった液体は薫り高く
生命力をそのまま与えてくれるような
力強さを楽しめます。

また、アトピー性皮膚炎の症状が顔面に出た数年前
ミントティーを頂きながらの仕事の打ち合わせ中
しばらくすると相手の方が驚いています。

「顔色が良くなりましたよ」
鏡をのぞくと確かに赤みがひいているではありませんか。
後で調べてみると、鎮静作用もあるとのこと。

ミントの刺激と、逞しさと、
それなのに心身を鎮めてもくれる力を秘めた
そんな自然の不思議には
ただただ畏れ入るばかりです。

 

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白乃ちえこ
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