トマト

トマトをもいだときの
青い香りが鼻腔を刺激すると

決まって頭の中で
バッハのメヌエット ト長調が奏でられる

子どものころ夏休みに祖父を訪ねたとき
裏の畑で摘んだトマトを桶で冷やし
入道雲を仰いで蝉しぐれを聴きながら
かじったときの驚くほどの甘味と

小学生だった私が初めて臨んだ
ピアノの発表会で弾いた曲を
遠くから駆けつけてくれた祖父が
観客席の奥で聴いていたさまが

祖父の想い出として
何十年経っても結びつくからだろう

人の不可思議な記憶のしくみだ

トマトをかじった幼いあの夏の日

夕立に濡れながら
水田で小指の先ほどの
鮮やかな翠色のカエルを追い

蚊取り線香の芳香の中
街灯に群がる蛾の妖艶な舞を眺めて
眠りについたのだった

 

この採れたて夏野菜たちの
瑞々しさと力強さ
色づきの艶やかさは
緻密で大らかな月日の流れが生み出した小宇宙だ

いったいあれから何回
小宇宙を巡っただろう

 

<夏野菜の滋味をとじこめる ドライ野菜>

日差しを利用して野菜を干すと
ビタミンDが増えるばかりか
甘味と旨味が凝縮されます

レタスなど葉ものは水分が多すぎて向きませんが
トマト、とうもろこし、ナス、カブ、
ズッキーニ、キノコなどは
薄切りにしザルに広げて干すだけで
おいしくなります

もし干しきれなかったら
低めのオーブンでじっくり乾燥させても

できあがったらそのままつまんだり
サラダにまぶすのはもちろん
オイルやビネガーに漬けても
また別の味に出会えます

切り干し大根のように
有機野菜の皮を干したら
無駄もなくその上おいしくなって
自然の恵みを余すことなく頂くことができます

投稿者プロフィール

白乃ちえこ
白乃ちえこ
つれづれ

前の記事

あの朝の憶い
つれづれ

次の記事

去り行く夏の宵