この先でまた会おう

5年前に自ら命を絶った息子が生きていたら

その日33歳になると語るある父親が

こみあげる涙を堪えながらも視線を上げ

女性に向かって続けます。

 

「多くのノマド生活者は

悲しみや喪失感を抱き、歳を重ねている。

 

自分は息子のいない世界でなぜ生きているのか

答えはなく苦しかったけれど、

人を助けることが供養になると気づいたんだ。

 

そしてそれが生きる支えになった。

 

ノマドとしての生き方が好きなのは

そこに最終的な別れはないことなんだ。

 

また会おうと言って別れ

そしてまたどこかで逢えるんだよ。

 

だから、また息子に逢えると信じていられる。

共に生きた時間を思いだせる。」

 

定住し日課をこなす

良くも悪くも安定した日々を過ごす私は、

その言葉のもつ

どうしようもない切なさと力強さに

圧倒されたのでした。

 

映画「Nomadland」での終盤のひとコマです。

 

そしてエンディングロール最初に添えられたメッセージで

あの秋の朝、惜しまれて旅立った友人へ

想いを馳せました。

 

“Dedicated to the ones who had to depart.

See you down the road.”

(拙訳:ゆかねばならなかった人たちへたむけて。この先でまた会おう。)

 

その言葉は、

自分の中でときおり頭をもたげる

不安や悩み、とまどいを包みこんで昇華する

呪文になるに違いありません。

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白乃ちえこ
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