月面の島で

月では
こんな光景が広がっているのではないか

そんな風に思える溶岩の塊で覆われたあの島で
見渡せる色彩と言ったら
太陽に灼かれた大地の灰褐色と
風よけに岩石で囲われたワイン用のブドウやわずかなサボテンの緑色
海塩畑の乳白色 そして
海や空の碧色 くらいのものだ

夜になると
漆黒の闇が包みこみ

月が出ていれば
全てを陰影だけで描き出す

まるで墨絵のような世界になる

自然はなんと素晴らしいキャンバスを用意したことか

滞在中はテラスに置いたデッキチェアで
毛布に包まりながら
ただひたすらに月を眺めたものだった

月の光が
虫の声が
草木の露の湿り気が
花々の香りが

あのときの心の深い傷に
そっとそっと でも確かに
働きかけてくれたのだった

あれから何年も経って
今の自分があの月面のような島に行けたなら
どんな風に迎えてくれることだろう

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白乃ちえこ
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