おさなごの甚平

「甚平を着た色の白い可愛い子どもだもの
後をついてきてしまったのよ」
と母は言う
じつに不思議なできごとだった
里帰りをしていたある夏
川の字になって休んでいた夜半
母と次男だけが確かに聞いたという
あのノックの音だ
私は全く気付かず眠っていた
無邪気に起き上がった3歳頃の次男の前には
廊下の暗がりだけが広がっていた
ところが、その横を白い煙の塊が
すーっと壁を伝い天井を抜けた様子を
母は見たと言うのだ
歴史に名を遺す武家の落人が
最期を迎えた寺を詣でた晩のことだったから
母の言うこともさもありなんではある
もしあれが
今生に子どもを遺して逝かざるを得ない
母親の魂だったのなら
それがために成仏できない魂だったのなら
甚平に導かれたあの白い煙の辿った先には
安寧こそがあってほしいと思う