佇まい

「素敵なMadameだったね」
愛犬のリードを握った大学生の長男が言った。

森を散歩中の犬同士が
尻尾をふって鼻っ面を付き合わせている
ほんの数秒間、
飼い主同士は笑みを湛えて待ち
別れ際に「Bonne journée!」(良いいち日を)と
言葉を交わしただけの女性のことである。

息子の言わんとするのは
おそらく(あえて言葉で表せるとしたら)
存在感と品格のある人だろう。

ふむ、若いながらなかなか観る目がある、と思った私は
「何がそう思わせるのかしらね?」と返す。

「歳を重ねることを潔く受け容れているような佇まいかな」
ときた。なるほど確かにそうありたいものだ。

その「佇まい」を
ほんの瞬時に感じさせる、
あるいは感じられる、
これは奇跡の邂逅に他ならない。

その女性は60代か、70代に入っているかもしれない。
すらりとした四肢を包むのは
はき慣れたホワイトジーンズに
着やすそうなコットンセーター、
柔らかそうな銀白色の髪は
無造作にまとめ上げられている。

ピンと伸びた背筋だけではない、
うっすらと口角を上げた矜持だけではない、
纏う服の上質な素材だけではない、
麗しいあり方こそなのだ。

 

往来の難しい時節ではありますが、
欧州生活を希望される方やご興味のある方、
訪ねていらっしゃる方、在欧30年になる私で
お役に立てることがあれば、お知らせください>

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白乃ちえこ
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