ダントツ最終ゴール

日本の学校のように立派な校庭やプールなどの施設が
自前で備わっていることが稀なベルギーでは、
体育の授業で近所の森や公園、
公営プールや大学施設を利用する。
学校の周囲3キロほどを走るという
課題がでたある日、
ダントツ一位はなんと言っても
ケニアにルーツをもつ彼であることは
誰もが疑わないところだから、
その次を狙えとばかりに
血気盛んな男子生徒たちは
我先にと駆け出す。
やがて走り終えた一団が
やんややんやと騒ぎたてる横を
ふくよかな彼が息を切らせて
ひっそり「ダントツ最終で」ゴールした。
先生は生徒たちに語りかける。
ケニア君の賞賛かと思いきや
「ふくよか君は素晴らしかったなあ。
私が見た限りでは彼だけじゃなかったかな、
一度も休まずに走りぬいたのは。」
速さだけを競っていた
男の子たちはぐうの音も出ない。
ウサギの瞬発力に価値もあろうが
どうしてどうして
カメの持久力だって負けてはいないのだ。
***
持久走は自分と向き合う作業だ。
『自意識』が過剰な、
つまりは他者の視線本意の、
そんな自分に気づく
絶好のチャンスでもある。
見たくもない自分の姿もあり方も
それもこれも自分だと認める、
それもこれもまるっと受け容れる、
そんな大らかな自分でありたいと願う、
絶好のチャンスでもある。
***
遅くたって止まらず走りきるのは大いなる挑戦、
アッパレではないか!
そう、自分で自分を慈しもう。
他ならぬ自分が
それを望んでいるのだから。
***
<往来の難しい時節ではありますが、
欧州生活を希望される方やご興味のある方、
訪ねていらっしゃる方、在欧30年になる私で
お役に立てることがあれば、お知らせください>