梅花空木が咲くと

甘やかでふくよかな瑞けをおび
ほのかな酸味をあわせ持つ
なんという香しさだろう

この花には
梅花空木(バイカウツギ)という
芳しい名がある

この白い花花が咲き誇る季節に
ドイツから訪ねてくれた義父母が
市場で買った新鮮ないちごを
庭の円卓で愉しんだ午後

それからほどなくして義父は不帰の客となった

あの大戦を生き延びた兵士の
最後のひとりがこの世を去った

乳児だった息子を抱いて
冷たい地中の棺に白百合を手向けたときも

梅花空木の芳香が辺りを包み込んでいた

すると ふと

マレーネ・ディートリッヒが
そこはかとない哀調で吟いあげる
「リリー・マルレーン」のメロディが浮かぶ

若い兵士たちが戦地で耳を傾け
遠い故郷に想いをよせたというあの唄だ

和やかに囲んだ円卓と
墓地で見上げた晴れ渡る空
そして憂いに満ちた旋律は

ひとつの生の終章として
そうして私の中で繋がり
生き続け

梅花空木が咲くと
あの午後が呼び覚まされる

***

Lili Marleen

Vor der Kaserne vor dem großen Tor
Stand eine Laterne
Und steht sie noch davor
So wollen wir da uns wiedersehn
Bei der Laterne wollen wir stehen
Wie einst Lili Marleen
Wie einst Lili Marleen 

兵営の前門の向かいに
街灯が立っていたね
今もあるのならそこで会おう
また街灯のそばで会おうよ
昔みたいに リリー・マルレーン
昔みたいに リリー・マルレーン

Wikipediaより引用)

 

投稿者プロフィール

白乃ちえこ
白乃ちえこ
やまとの国

前の記事

昭和の佇まい