ことづて

ほら見てごらん
父よりもずっと年上の伯父が
こどもだった兄と私に見せてくれた
何十センチにもわたる足の傷
何十年経っても生々しく残る傷
刀で切られたこの傷があったから
南方から生還できたんだ
ヘビやネズミを食べて
生き延びられたんだ
伯父は申し訳なさそうに
でも安堵したように独りごちた
私が子どもだったころにはまだ
手や足を失った傷痍軍人が
駅前でうずくまって
喪った仲間を弔い
忘れてはならないことを
切々と訴えていた
声にならない何萬もの声を
伝えていた
その訴えも声も
駅前でこわごわと遠巻きに眺めていた
あのときの少女に届いている
あれから何十年経てもなお
生き続けている
伯父や傷痍軍人がもう辿った所へと
あの少女は空高く飛ぶ鳥に
そうことづてる