あの夏の夕方

あの夏の夕方に撮った一枚の写真がある
彼女とパートナー、二人のお嬢さん
私と長男が収まった
その面々で撮ることは もはや叶わない写真
もともと小柄だったのに
2年にわたる闘病ですっかりやせ細った彼女と
みんなで微笑んでいる写真
近所のケーキ屋で評判というアップルタルトと
有機栽培の紅茶を楽しんだ時の写真だ
年頃のお嬢さんがダイエットのために
小さく小さく取り分けたと思ったひと切れは
彼女が食べられる最大の分量だったと知った瞬間
彼女に残された時間を
見せつけられた瞬間
私の心のざわめきが写真にも投影していると
彼女が気づいたかどうか
確かめるすべは もうない
人は
既にあの世で待っている
懐かしい人たちと再びまみえ
そしてまた生まれ変われる
彼女はそう信じて
来世もまた会おうと笑みを浮かべて
ほどなくして 旅発っていった