味覚の妙味

ボーイフレンドの母国を初めて訪れ
ご両親に紹介されたとき
みんな談笑しているけれど
こちらはひとり緊張しきりだった
心づくしのケーキは
途方もない甘さに目が覚めるほどだったのに
その頃はまだ言葉もろくにできなかったから
無聊をかこつにはもってこいで
ようよう食べきったのだった
ところがやがて
にこやかにふた切れ目を勧められ
所在なさを紛らわしたくて
頂いてしまった
うんざりするほどのあの甘いひと切れを
ほろ苦く感じたのは
一緒に頂いた濃厚なコーヒーのせいだけではないだろう
それから長い年月を経てあの頃を想うと
心と舌がきゅんと引き締まるような
甘酸っぱさを覚える
人の味覚とはまったく妙味なものである