ゆうちゃんと虫

ゆうちゃんは虫のことを何でも知っていた
ふだん口数の少ないゆうちゃんは
蝶や蟻やてんとう虫のことだけは
大きな瞳をきらきらさせて話してくれた
授業中にふらりと教室を抜け出しては
校庭の花壇にうずくまってミミズを眺めたり
ウサギ小屋の横の木にとまったセミを観察した
なぜゆうちゃんだけ自由な出入りが許されたのか
誰も聞こうとはしなかった
ゆうちゃんが小学校に上がってすぐの頃
クラスで音読を笑われてから
他の子どもと交流しなくなったことを
夕方になると
きれいに髪を結い上げた華やかな衣装の
お母さんがそろそろと道を行き
ゆうちゃんはひとり残されることを
虫がゆうちゃんの友達だということを
クラスの子どもたちは知っていたからだ
あれから何十年も経って
農薬で虫がいなくなってゆく世界を
ゆうちゃんの友達が失われてゆく時代を
あの大きな瞳で
どんな風に見つめているだろう