香りと心

「女性は触覚と聴覚に弱いの。

ね、心当たりがあるでしょう、
好きな人に髪でもそっと触れられながら
耳元で好きだよ、なんて囁かれたりしたら、
あなた、もういちころでしょ。

それとね、忘れないでね、
男性は視覚と嗅覚に弱いんだから、
ほら、胸元の開いた服でも着て
香水をひとふりしたら、
それでもうのぼせあがっちゃうのよ。」

通っていた女子高で
独特の魅力を放つ名物の保健の先生がいました。
当時すでにご高齢でありながら
生来の茶目っ気をふりまいて
聞き入るうら若い女子高生たちに
教えを垂れて下さったものです。

そんなありがたい言葉を
長い年月が過ぎてからふと想い出したのは、
心酔する香りを身にまとったときでした。
ひとりにんまりしたっけ。

その香りというのは
絶妙な甘さと馥郁とした奥行き、
微かに爽やかな酸味、
どんな体調でもどんな気分でも
心地よさを感じられる
私にはいわばきつけ薬なのです。

それはまた
別のコローニュと合わせることで
思いがけない気づきを得たような
清新な驚きををもたらしてくれるばかりか
エネルギーを上げてくれるほどの力を持ちます。

香りといえば
室内を設えたいときにも
愛用のものを取り出します。

艶やかで瑞々しい芳しさで
澱んだ空気を清めてくれるかのよう。

部屋でくつろぎたいときなど
またたく間に上等な空間を作り上げて
次元をあげてくれます。

 

香りというものは脳の伝達機能において
感情と記憶に直結すると言いますから

自分の心にご機嫌で過ごしてもらうためにも
そして先生の教えを守るためにも
好きな香りに包まれる
ささやかでも豊かな幸せを愉しみたいと思うのです。

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白乃ちえこ
白乃ちえこ
実り

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