去り行く夏の宵

コントラバスが低く奏でるジャズの音色で
屋外にしつらえたカフェの辺り一帯は空気が華やぐ
ヴァカンス明けの灼けた肌の人びとが
グラス片手にさんざめく声も
森の樹々としじまが吸い込んでしまう
穏やかな晩夏の宵
誰もが去りゆく夏の想い出を懐かしく語り合う
充ち足りたとき
つい20年前まではどこにでもいた虫たちが
すっかり姿を見せなくなり
つい10年ほど前まではなかった熱帯夜で
眠れなくなり
つい5年前までは北の海で
トドが静かに暮らした島が
絶壁だけを残して海に沈んでも
わずか数か月間で世界を席巻しつくす異変で
人の往来がことごとく制限されても
私たちはジャズを聴きながらグラスを傾け
愉しかったヴァカンスの想い出を語り続ける